2017年12月
ニーチェについて
19世紀のニヒリズム虚無主義の中でニーチェは”全ての神々は死んだ、我々はいま超人が生きることを欲す”と言いましたが、下記の著の中の「超人」の一節を紹介します。
ニーチェ、【文庫クセジュ】ジャン・グラニア著須藤訓任訳、白水社発行
「進化論的な」いくつかの言い方に惑わされてはならない。それら言い方には比喩的価値しかないのであり、したがって、進歩への信仰によって台無しにされたとして当代の生物変移説にニーチェが差し向ける辛辣な反論を逆に投げ返されるようなものである。なぜなら種としての人間は動物よりも進歩しているわけではないし人間集団内部においても、大衆に対して進歩を示している持続的選良が形成されたわけでもないからである。これにつては退歩という方がむしろ正直ですらある。近代人は、ルネッサンス文化の英雄や古代ギリシャ人と比べ退化しているのではないか?
ダーウインニズムに対したはニーチェはその論難特殊化し、次の二つの反論をあげている。すなわち、低次の形態のものは高次の形態を産出することはできないこと、そして・・・遺憾なことに・・・「生存競争」に勝つのはしばしば弱者や凡庸な者たちであること。「通例、より優れた高貴な魂の持ち主の方が失敗し没落するのである」
そして、超人とは自ら変わる者を謂うのであって、ある日突如人間にとって代わるような外的次元の存在なのではない。人間の没落とは超人への移行にほかならないことを示すという形で確認する。「人間の偉大なところは、かれが橋であって目的ではないということである、人間の愛するべきところは、かれは移行であり没落であるということである。」そして「わたしは、没落する者としてしか生きる術を知らない者を愛する。というのもかれらは没落しつつみずから克服してゆくのだからである」
また、解説の中で、ニーチェは無神論を説いているのだと結論することは許されるのだろうか。「断固そうだ!」という肯定するなら、ニーチェの思想にきわめて遺憾な損傷が加えられることになる。ニーチェの思想はひたすらニュアンスを命とし、浅薄な精神なら喜びそうな硬直した二者択一は拒否するということこそ名誉にしているからである。
そして、イエスについての記述が次のように有ります。
前略・・それは狂気の危機に際して炸裂し、ニーチェの危機の時の短信に、じつに示唆的なことに、「十字架に架けられた者」の名(イエスキリスト)をもって署名したので有った。ニーチェはイエスの人格と福音のある局面に魅せられていた、・・後略
以上ニーチェがマルクスを知っていたらニーチェは変わっていただろうというのは、経済が混乱しニヒリズムに陥っていたからなのだということが解るようです。
ニーチェについての最後に、よく誤解するところですが、「人間の家畜化とは聖職者の発明である。本能を抑圧し、罪への不安によって有責の感情を植え付けることが聖職者の技能である。」これはニーチェが言ったことではなく、「おしまいの人間」に方向づけられたイデアリズム的家畜化のことで、超人へと方向づけられたニーチェ流の淘汰とは異にしているのです。そこでニーチェは「淘汰と家畜化とを混同する以上に最悪な混同はない。」としています。
「人間は変わること」「変わらなくてはならないこと」これがニーチェと聖書の類似点の一つで、これこそが鍵だと思うのです。
つづいて、19世紀の中の混乱期でニーチェは、「ニヒリズムとは近代世界を襲っている致命的危機の本質である、諸価値の普遍的な価値喪失にほかならない、この価値喪失によって人類は不条理の不安に突き落とされ、もはやなにも意味はないことが絶望的に確信されられることになる。」としています。
普遍的な価値喪失とは、「あらゆる神々は死んだ、われわれはいまや超人が生きることを欲する」という言葉でわかります。
ニヒリズム(虚無主義)の最初の段階をデカダンス(退廃的)と語り、『危害がなくなった人間、自他に対して弱くなり、卑下と謙遜のうちで打ちのめされ、自分の弱さを意識した人間、つまり「罪人」・・』としている。この「罪人」こそ聖書の中に出てくる言葉であり、またこのデカダンスの原因が僧侶階級の人間の家畜化として解説していますが(白水社発行、文庫クセジュ、ジャン・グラニエ著、須藤訓任訳「ニーチェ」より)、これらの人間を聖書の中では「罪人」としているのです。日本で言えば日蓮の「立正安国論」がこれらの僧侶を非難しています。
ニーチェの思想は聖書の中の多くの教えをニュアンスとして引き出していると思うのです。故にニーチェは無神論と断言できないという解説がなされています。
19世紀の自由思想家が経済学を解らずに、自分勝手な行動で世の中を混乱させニヒリズムに落いらせ、ニーチェやマルクスそしてケインズを悩ませたことが目に見えるようで、今の経済社会に酷似していると考えられます。そのご世界恐慌、世界大戦が勃発したことを忘れてはならないのです。
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